総合型地域スポーツクラブの設立に関して、課題の一つに必ず出てくる事柄が、この「切れ目のない選手育成」です。
日本におけるスポーツ環境の特徴と言いますか、社会構造上の問題とも言えますが、幼児、小学校、中学校、高校、大学、社会人とスポーツを行う環境がガラッと変わり、指導者も変わり、指導方針や指導内容まで変わってしまう事という現実があるわけです。
これが問題と捉えるか否かは様々なご意見もある事と思いますが、少し考えを掘り下げてみたいと思います。
ドイツのスポーツ環境から考察
現在のスポーツ庁が、総合型地域スポーツクラブの設立を推奨していますが、そもそもは100年上の歴史を持つ、ドイツにおけるスポーツクラブがモデルになっているとの事です。
そのドイツの事情を見ていくと、日本では当たり前の学校の放課後にある部活動というものがドイツには存在しないのだそうです。
代わりにあるのが地域にスポーツクラブがあり、子供達は学校が終わるとスポーツをしに地域のスポーツクラブに行くのだそうです。(そもそも学校が午前中に終わるらしい)
このスポーツクラブの数が半端ないのです。著書「ドイツの学校になぜ部活がないのか?」によると、著者の高松氏が住んでいるエアランゲン市(人口11万人)には100ものスポーツクラブが存在しているのだそうです。実に1,000人に1つスポーツクラブがある換算です。稚内市の人口の約3万人を当てはめると30のスポーツクラブがある事になりますから本当にすごい数なのです。
なぜこんな事が可能なのかというと、ドイツには「学校以外の教育は家庭の領分」という特徴があり、いわゆるスポーツも学校以外となり、学校は授業をし学問を教える事に徹して、スポーツはスポーツクラブでするという事が主流なのだそうです。
ドイツの子供達は小さい頃から、大人になるまで一つのスポーツクラブに所属し、同じ指導者に指導を受け続ける事を選択できる環境があるのですね。
しかもこのスポーツクラブはほとんどがNPOで、地域のボランティアに支えられているそうです。
このように市民活動が活発なドイツだからこそ、こんなにも沢山のスポーツクラブが存在し、100年以上の歴史あるスポーツクラブがドイツのスポーツ社会を支えているのですね!
理想の選手育成の基本スキーム
では、どのような選手育成スキームが理想なのでしょうか?
子供達の年齢や体格、競技志向性に応じた指導体制、それらに適した活動場所の確保などが最低限必要でしょう。
幼児期や小学低学年時期の子供達には、様々なスポーツや運動に触れる機会と、それに熱中できる環境を提供する事で、多様な可能性を拡げる仕組みが求められます。
指導者も有資格者を基本とし、各自の指導スキルを向上するための、研修機会を提供する事も大切な取り組みとなるでしょう。
長くスポーツ指導者は無償ボランティアが基本とされていましたが、この世知辛い世の中では個人の貴重なプライベイトの時間を無償で拝借することの難しさが問題となっています。
この問題を解決するには指導者を何らかの形で確保する必要があります。
考えられる事の一つが指導者として雇用する事が一つ、もう一つは地域の企業が従業員として抱える事で地域に優秀な指導者を確保するという事が考えられます。
さらに、学校との連携も重要なポイントになると思います。教員の中には優秀な指導者が多く存在しています。
学校と地域が上手に連携して、これらの幼児→小学→中学→高校→大学→社会人を一連の指導体制を構築する事は出来ないでしょうか?
こう言った課題にも総合型地域スポーツクラブは取り組んでいくべきと考えています。
今も昔も変わらない日本の学校部活動の現実
私もかつては学生でした。笑
私は中学、高校と一貫してバレーボール部に所属していました。
中学の顧問の先生は、残念ながら(失礼!)バレーボールは素人の先生でした。しかし、一生懸命関わってくれた先生でした。そんな先生に私達部員は随分慕っていましたが、その反面試合には勝てませんでした。部活は楽しかったですが、上位大会で勝って優勝するという経験が一度も出来出来ませんでした。
同じ地域の他校の顧問は、厳しい指導でバレーボール専門の先生で、新人戦の時はさほど実力の差は感じませんでしたが、3年生の中体連の頃には圧倒的な大差で全く歯が立たなかったのです。
そうなんです。部活動で強くなるには専門で優秀な指導者が必要なのです!
中学校は基本は住んでいる学校区で進学する学校が決められてしまいます。
進学する学校に入部したい部活があるかどうかは、その時の状況で変わってしまいます。その傾向は今も変わらないのではないでしょうか?
地方都市はどこも同じ傾向かも知れませんが、もはや学校単位で団体競技のチームが成り立たず、複数校で合わせて何とか試合に望めるくらい生徒が減っています。
もうすでに学校単位で部活動を考えられない状況になっているという見方もできる訳です!
この問題は、学校単位の問題ではなく、地域全体で取り組まなければならない事態へと進展しているようです。
あなたはどう思われますか?子供達が、やりたいスポーツや指導者も含めた練習環境を自由に選べる環境をこの稚内に作れないものでしょうか?
選手から指導者へのセカンドキャリア
地域のスポーツ団体に何か困っている事は無いですか?と聞くと、ほとんどの方が『慢性的な指導者不足』と言います。ある方は「俺が現役の間は良いが、その後の事を考えると・・・・」と自分が受け継いだスポーツ活動を次の世代にバトンタッチする未来を描けないでいるのです。本当にどうなってしまうのでしょうか?
近年、スポーツアスリートのセカンドキャリアという言葉を聞きます。これは、プロの選手が現役を引退した後、テレビの解説者になったり、テレビタレントになったり、事業を起こしたりといった類の事と思われる方も多いと思います。(私もそうでした)
しかし、地方のスポーツ団体活動の現実を、このセカンドキャリアという考え方で解決の糸口を見出せないでしょうか?
地方に雇用の受け皿を作っていくのです。その一つに総合型地域スポーツクラブがなり得ないかと考えています。
総合型地域スポーツクラブが団体として成長し、多くの雇用を産むことができる事業体となれば、それは可能となります。
そうなれば、地域で育った選手が、そのまま地域に職業としての指導者となり地域のスポーツ活動を継承していくのです。
総合型地域スポーツクラブの可能性
このように総合型地域スポーツクラブの活動を通じて、地域の課題解決できそうな事が随分とありそうですね!少し整理してみましょう。
- 少子化による学校部活動が縮小していく問題
- 生徒が自分のしたいあるいは適正なスポーツが選べない
- 慢性的な指導者不足
- 一貫指導体制と競技力の問題
これらが総合型地域スポーツクラブにより期待できる効果
- 学校間の生徒同士の交流が増える
- 複数のチームが存在すれば生徒の選択肢が増える
- これまで無かったスポーツの選択肢が増える
- 地域に指導者が留まり地域の雇用が増える
- 一貫した指導体制のなか生徒は自分の志向に応じて活動するチームを選択できる
- 地域スポーツの競技力が向上する
- 競技会などの開催が活発化し交流人口が増える
- 地域の生涯スポーツの活動が活発化し地域の健康レベルが向上する
- 学校教師の労働環境が改善される
とまぁキリがないのでこの位にしておきましょう!
ですが、スポーツの持つ可能性というのは大きいものだと改めて感じました。
あなたは、どう思われますか?
生涯続くスポーツ環境の実現とその先にある未来
最近、SDGs(「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称)という言葉を目にします。
私はこれをスポーツに当てはめるとすると、冒頭で紹介したようにドイツ社会に根付く100年続くスポーツクラブの事なのだと思いました。
不景気やこの度のような新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が広がった局面においても、地域にとって守るべきもの(インフラ<日々の生活を支える基盤>)になるようなスポーツクラブでなければ、SDGsなスポーツクラブはできないのです。
これからの未来をどのように作っていくかは私達大人の役割です。あなたもその1人になりませんか!
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今回は以上です。
次回は「最新のフィジカルトレーニング情報」というタイトルでお届けする予定です。
記事投稿者:古川